2012年04月11日

いずみは湧き続ける。


年末から体調を崩し、なかなか戻らないままなんとか生活してきた。

何より困ったのは、仕事をしよう絵を描こうという気持ちが1mmも沸いてこないことだ。
例によってチャンドラー方式で、画室にこもってみるのだが、絵から声がかからない。
そして、そのことに絶望し、体を動かすのもしんどいので寝てしまう。
さらに逼迫経済が精神に追い打ちをかける。おまけに寒い。

出かけても、10分歩くとどこかに座って5分休む、という効率の悪いお出かけになってしまう。

一日の2/3くらいは、ふとんで寝ていた。

あまり、痛い辛いを語る趣味はないけど、これはかなりこたえた。



でも現金なもので、うぐいすがホー ホテチョとヘタクソに鳴き始め、ひっちょね君も鳴きだし、
オオイヌノフグリやニホンスミレが咲くようになると、気持ちも体も少し楽になってきた。



その間も仕事はなんとかしてきた。

美術作家による震災遺児支援 【3.11きずな展】http://homepage3.nifty.com/kaho-art-products/kizuna.html に「いずみ」P4を出品した。



この作品に添えるなら、こんな言葉だと思う。

「いつの日も、いずみは湧いている。枯れることなく湧きつづける」



巡回の予定
◆東京展 3月22日(木)〜27日(火)日本橋島屋 8階ギャラリー

◆東北展(岩手県盛岡市) 4月26日(木)〜5月1日(火)川徳 7階ダイヤモンドホール

◆京都展 5月17日(木)〜21日(月)京都島屋 7階グランドホール




いづみs.jpg
「いずみ」P4




この展覧会はチャリティーオークション形式で、「いずみ」はすでに東京展で、複数の入札をいただいたようだけど、どなたの手元に行き、どのくらい寄付できるのか、すべては巡回が終ってからとなる。

次号から新連載となる【表現者】コラム「なごりの色」を入稿した。
現代ではあまり使われなくなった日本の伝統食の名前を柱に、あれこれエッセイを書いてみようと思う。
初回は「禁断の砂糖菓子」と題して、小学生の頃のエピソードを書いた。
何が砂糖菓子なのかは、4月16日の発売をお楽しみに、ということにしておこう。


さらに来春、京都に加えて鎌倉でも開催することになった「観〇光」の鎌倉展実行委員長にされてしまったので、そちらの準備もしてゆかなくてはならない。



そして「瓜南直子展− 月の消息 −」。
4月26日〜5月6日 鎌倉ドローイングギャラリー http://kamakuradrawing.com/
【表現者】表紙原画、ドローイング、パステルなど20数点を展示する。


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「瓜南直子展− 月の消息 −」DM





8月は日本橋三越の企画展「ざ・てわざ」。
こちらは、すでに下地も作り、下絵のトレースも済んで、
あとは描くだけという状態のパネルが、「待ってるよ」という顔で壁にかかっている。



若い頃から、人一倍お酒を呑んできた私は、末はアル中かと思っていたけど、そちらには行かず、不調を訴えたのに聞いてもらえない胃などの内蔵がストをおこして故障してしまった、という結果となった。けれど、これはある意味たいへんありがたい。


リセットして体を休め、生活を見直して出直しなさい、という信号だったのだと思っている。

そう思うと、なんてラッキーな奴なんだ、と思うし、
まだまだ絵を描きなさい、と絵の神様が私に時間を下さったのだと、かみしめている。


桜も咲いた。
もくれんも咲いた。
玄関のれんぎょうも咲いた。


個展の新作の一群が、いい感じの方向性を与えてくれている。
ここをフックに、新しい展開を進めてゆきたい。


作品が仕上がるのを、いちばん楽しみにしているのは実は私なんである。










posted by 瓜南直子 at 15:57| Comment(10) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月22日

コラム表紙を語る6. 【絵の周辺に棲むものー「音楽」】



文章を書く時以外は、ほぼ一日中、生活の中に音楽がある。

親の話では3歳の頃、勝手にオルガンを弾いていたらしい。
楽譜が読めるわけはないから、4歳上の姉が弾くのを聴いて当てずっぽうで弾いていたのだと思う。
この子バイエル半分弾いてる、とあわてた親がピアノを習わせたのが
音楽とのつきあいの始めということになる。

以来ずっとピアノは習っていたが、手が小さくてオクターブが届かない。
しかも楽譜のとおりに正確に弾く、ということが困難な性格なもので、勝手に曲を変えてしまう。
おまけにピアノの先生がたいへん熱心な方で、生徒はみな音大を目指す人ばかり、
という環境も私には難易度が高すぎた。



小学校卒業も近いある日、先生に

「あのね、僕のとこは月謝が高いんだ。君にはもったいないから、やめなさい」

と引導を渡された。



こうして晴れてピアノのお稽古から解放された私は、ロックに身をやつし、
バンドを結成してはヘタクソなキーボードを弾いて満足していた。



でも絵を描くようになってから、クラシックが復活した。
ロックやブルースでは、制作のバックはつとまらないのだ。



仕事初めは、バッハのゴールドベルグ変奏曲、もちろんグレン グールド。
よし始めよう、と背筋を伸ばしてくれる、ありがたい曲である。
スケッチや描写の時は、静かなバロックギターやリコーダー、チェロ曲、アリアなどを流している。

そして、佳境に入った仕事のバックを勤めますのは、
バッハの平均律や、バデュラ スコダのフォルテピアノ。
特に平均律は、「描け描け」と叱咤激励されているようで、
大バッハ先生には申し訳ないけど、私にとっては労働歌なのである。

個展前になると、さらにYMOや声明、グレゴリウス聖歌に軍歌まで加わって、
いやおうなく士気は鼓舞されてゆく。
どうやらバッハやYMO、声明にはお経のような効果があるようで、
アドレナリンやエンドルフィンがどうにかして、私の頭がトランス状態に近くなるらしい。


かくなる大音楽隊の力を借りて、なんとか作品は仕上がる。
そして仕事が終われば、ウィスキー片手にライ・クーダーやトム・ウェイツの音に酔い、
夜の闇に深く深く潜ってゆくのだ。  

                                【表現者】41号「コラム表紙を語る」より転載  


表現者41表紙s.jpg





ジョルダン株式会社刊  http://amzn.to/fTBsKj







posted by 瓜南直子 at 02:35| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月29日

いつもなおかず12. にしん蕎麦




にしん蕎麦S.jpg



めずらしく堅干しのにしんを戻してみた。

戻し方や下処理は、ソフトにしんとほぼ同じだけど、戻す日にちは倍以上。

白水(お米のとぎ汁か、米ぬかをもみ出した水)で戻し、
毎日水を替えて5日ほどしたら、ウロコやヒレを引いて皮のぬめりも包丁でしごき取る。
お茶の出しがらで揉むように洗って、中骨の残りや腹の皮や骨を引いておく。

にしんの戻し方、下ごしらえはこちら→
「にしん煮ませう」 http://kanannaoko.seesaa.net/article/143538444.html


にしん戻すS.jpg

                                 右上が、だし袋に入れた米ぬか。これを揉みだして白水とします。




今回は、にしんそばを作りたかったので、棒煮にしました。

鍋に昆布を敷き、水、酒、三温糖かザラメ、醤油を合わせ、にしんを並べ入れて、
薄切りのしょうがを散らして落し蓋をしてコトコト炊きます。
20分ほど炊いて火をとめ、そのまま冷まします。



にしん煮S.jpg





この鍋は由比ヶ浜通りの古道具屋さんで見つけました。
浅いので煮魚にちょうどいいし、この古っぽさが気に入ってます。
菜っ葉を茹でたりするにも、火の通りが早くて便利です。
ただペナペナアルマイトなので、煮魚には底に経木や昆布を敷いてま​す。



にしん蕎麦は、温かいお蕎麦に、温めたにしんと小口切りのねぎをのせるだけ。


初めはさっぱりしてるけど、お風呂に浸かったにしんから、だん​だんコクが出てきます。
中ほどでぐっと旨みが増して、おつゆを全部飲んだ後は、
食べ始めの記憶と中和して、ちょうどいい加減に「おいしかった」となる。
こういう感じを「返し味」というのかなぁ。


にしん蕎麦といえば、京都四条南座の「松葉」が有名だけど、
この腰巻というか、お昼寝タオルケットみたいにお蕎麦をかける様式は、
いったい​なんであろうか???と思いながら、かけてみました。

後​で思ったけど、かけるお蕎麦は別にして、揃えてかけるんですねー。
ちょっと、バラけてしまいました。


炊いたにしんは、お茄子と炊き合わせるのもいいなー。季節じゃないけど。



※灰汁や番茶で下煮する方法もあるけど、下ごしらえをしっかりすれば臭みはほとんどなくなる。
灰汁はたぶん、そのアルカリ成分で身を柔らかくするのだと思う。
加減が今ひとつわからないので試してみていないけど、次は使ってみようと思う。











posted by 瓜南直子 at 18:34| Comment(0) | 保存食フェチ。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月26日

いつもなおかず11. 小あじの南蛮漬



小あじ南蛮漬.jpg





どんなものでも注文を受けてから作る店があった。

マスターは、元銀座のバーテンダーだったという。若い頃の写真を見るとなかなかの色男だ。
いろいろな浮名を流し尽くして、シェイカーを包丁に替え、麻雀の牌でなく魚を切ることを覚えて始めた店だった。

もともと器用なタイプではないけど、誠実にていねいに作る。
それも、注文を受けてから、という揺るがぬ鉄の方針があるので、時間がかかる。
でも、蛸の薄作り、カワハギ薄作り、サザエ刺身、本ミル貝、あん肝、釣りものの〆鯖などなど、
新鮮でおいしくボリュームたっぷり、そしてどこよりも安かった。
だから、料理ができるのをみんなおとなしく待っていた。

蟹などは、全部殻から身を出してくれた。
さんまの刺身を頼むと、ワタだけ別にホイル焼きにしてくれた。
明日まで置いといても売り物にならないものは、遅くまで飲んでる常連客にサービスで出してくれた。
それも、サザエや本ミル貝やウニなんかを、である。

遅めの時間に頼んだチャーハンや雑炊には、その日の具材がいろいろ入っていた。
高菜の雑炊を頼んだのに、毛蟹の身が半身分入ってたこともある。




めったに予約などしない私だけど、一度、遠くから食いしん坊の友達が来た時、
これから一緒に行くからー、と電話して行ったことがある。
店に入ってカウンターに座るなり、ハイお通し、とあじの南蛮漬が出た。

え?お通し?これが?

だって、大ぶりの鯵が2本も盛ってあるんだもの。
しかも、ここの南蛮漬は、漬けこんで冷めたものでなく、
揚げたてに熱い甘酢をジュンッとかけるものなのだ。
「熱いうちがおいしいから、熱いうちに食べて」
なんて言われて、せっせと食べたら、もうもうじゅうぶんにメインディッシュ。
これ食べてから、サザエやかわはぎの薄造りを食べるのはなんとももったいない。

マスターはサービスのつもりだったんだろうけど、
うれしいけど、お腹いっぱいになっちゃうじゃないのぉー。



南蛮漬というと、この一件を思い出す。
マスターは、たくさん食べる人を見ているのが好きだったようだけど、
自分がほとんどものを食べないので、加減がわからなかったのだ。

いい店だった。
10年近く前にマスターが亡くなり、店は代替わりして全く別ものになってしまった。
ビジネスという言葉が似合わない店、というのがあったんだ。




南蛮漬S.jpg

                                              漬けてから2日後の南蛮漬




南蛮漬のあじは、やっぱり小あじで行きたい。
大きな鯵を骨まで食べられるように揚げると身が痩せてしまうし、なんとなく義務感にかられてしまう。
小あじなら、鉢にたくさん盛ってもいいし、2,3匹を小皿に盛り付ければ酒の肴にちょうどいい。
漬けた翌日からが味がなじんでおいしいけど、小あじならその日でもいただける。



小さくても、魚の下ごしらえは一緒だし、それなりに手間はかかるので、
2段階に分けて作ることにしています。

お腹を出して、エラをはずし、中を歯ブラシで洗います。
海水より少し濃いめの塩水に10分ほど浸けて、ザルか網バットにあけておきます。

と、ここまでが下処理です。
自然と水が切れてその後の仕事がしやすくなるので、そのまま冷蔵庫に入れて半日置いておきます。


で、半日後、ほとんど水気をふかないでいい状態になったあじに粉をまぶすわけですが、
小麦粉派と片栗粉派がいます。
もう、これはもう好みなんだけど、私は片栗粉派。つまりカリッとより、しっとり系。


漬け汁は、出汁と酢、みりん、同量くらいに淡口醤油を合わせたくらいが好みです。
ここに鷹の爪を入れて、火にかけて温めておきます。
揚げたての小あじの油を切って漬けて行きます。薄切りの玉ねぎも一緒に。
新玉ねぎは冷めてから入れたほうが、独特の甘みと食感が楽しめてうれしい。

漬け汁を入れる容器は、火にかけられて、そのまま保管できるホーローのバットが便利です。


タカベや小鯛、ままかりなどで作ってもいいですね。


今は、漬け汁をちょっと切って、パンにはさんで食べるのもいいなー、とたくらんでるところ。
おいしい粉で焼いた、ちょっとフカッとしたパンにレタスやトマトと一緒にはさんで。








posted by 瓜南直子 at 17:43| Comment(0) | いつもなおかず | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月24日

いつもなおかず10.アルファルファサンド



アルファルフア.jpg





アルファルファ。

初めて食べた時、あの植物独特のムンムンした生命力みなぎる味に驚いた。

種を発芽させた、つまり、もやしを日光に当てて葉緑素を増やした、
たいへん栄養価の高いものだってことはわかるんだけど、
これはいったいどうやって食べたらおいしいのか。

ドレッシングもあまり合わないし、モサモサして食べにくい。
何かの付け合わせというのも、とってつけたようだし、ほかのものとなじまない。


豚バラ肉とスープにしてみたことがある。
これはわりとおいしかったけど、モサモサ感が今一つだった。

そば粉のパンケーキに入れて、醤油味で食べてみたりもした。ただしナイフでうまく切れなかった。
でも穀物と油脂が合うのだということはわかった。

で、いつもはだいたい、豆腐を薄切りにして、
アルファルファとしらす、胡麻を乗せて醤油をかけたものを海苔でくるんで食べていた。



ある日、それをトーストしたパンにはさんで食べてみたら、
パンの熱でアルファルファが幾分しなっとなって食べやすくなった。
醤油をかけてちょっとおいたのもよかった。


そこからあれこれ試して完成したのが、このアルファルファサンド。

といいつつ、もう四半世紀も飽きずに食べています。



サンドイッチとはいえ、「ポケットブレッド」という、薄いピタのようなものを使います。
半分に切って中を開けると、たまにくっついているものもあるので、ソロッとはがしておきます。
ただ、たまに 破れます。

アルファルファをボールに入れ、おかか1パック、もみ海苔一枚分、
ひねりごまを加え、醤油をたらっと加えてよく混ぜます。
醤油の量は、ほんとに微妙なので、最初はほんの少しだけ入れます。
パンにバターや柚子こしょうを塗るので、醤油が多いと辛くなってしまいます。
しばらく置くと少ししなっとするので、ここで味見をして醤油を加減します。



ポケットブレッドは、加熱したオーブントースターで両面をごく軽く焼きます。
すぐパリパリになってしまうので、見張ってて下さい。または、ガステーブルに乗せた魚焼きの網で。
表面がちょっとパリッとして、中から湯気が出ればOKです。


パンの内側両面に、バターと柚子こしょうを薄く塗り、アルファルファをギュッギュッと詰めます。


時にしらすを入れたり、ウィスキーやワインの時は、チーズをはさんだりもします。
薄く切ったミモレットを混ぜてもいい。



初夏の朝食に、アルファルファサンドと味の乗ってきたトマトとチーズに紅茶なんてサイコー♪

風通しのよいリビングなんかがあれば、の話ですが。







posted by 瓜南直子 at 17:16| Comment(2) | いつもなおかず | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする