2012年01月29日

コラム表紙を語る5. 【絵の周辺に棲むものー「岩絵具」】


              
文筆家の人に言われたことがある。


「いいですよね、絵描きさんは。仕事始める前にいろいろやることがあって。
こちらは、いきなり原稿用紙ですから。なんか前置きがないかな、
と思ってエンピツ削ったりするんですけどね」


そう、私にはその日の仕事に入る際に、いくつかの作業がある。


まず音楽をかけて描きかけの絵をながめ、本日の式次第をメモする。
つまり、仕事の順序を箇条書きにしておくのだ。
そして膠を作り、筆や絵具を選ぶ。

これが導入部となって、次第に気持ちが絵に入ってゆく。
漫画家は、枠線を引くこと、書家にとっては、墨をすることが導入部になるらしい。



私が使っている絵具は、日本画で使う「岩絵具」。
チューブに入っている油絵具などと違い、鉱物や岩を砕いたものや精製した土で、
これを膠で溶いて画面に定着させる。同じ岩でも粒子の粗さによって、色味も明度も彩度も違う。
粒子の粗い天然岩絵具は、瓶に入れてあるだけで、うっとりするほど美しい。

しかし私の場合うっとりしていたら、ただ眺めているだけになってしまうので、
そのままでなく、絵具を焼いたり、何色か混ぜるなどして、好みの色を作っている。



色見本となるのは、仏画や障壁画の画集である。
または散歩の途中で拾った石や木片、苔、日に灼けた障子紙だったりする。
先日も、二条城の釘隠しや柱に施された、銅の装飾の緑青などを撮影してきた。
拡大プリントしておくと、色やマチエール(絵肌)の参考になるのだ。

出来た絵具は瓶に入れて、色の名前をつけてシールに書いて貼る。
何と何を混ぜたかも忘れずに書いておく。



色の名前をつけるのがまた楽しい。
「渋紙色」「檜皮色」「錆青磁」「媚茶」「梅鼠」などは、日本の伝統色からとった。
天然岩絵具を焼いて、色に深みを出したものは「焼白緑」「焼緑青」「焼岱赭」など。
いつのまにこんなに増えたのか、数えてみたら五百本ほどの瓶があることに、自分でも驚いている。



と、絵を描くつもりで絵具を作るのに夢中になり、
気がつけば何時間もたっていて、もういいや今日はおしまい、
なんてこともたまに、いや結構あります。

                          

【表現者】40号「コラム表紙を語る」より転載  




S.jpg






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posted by 瓜南直子 at 16:12| Comment(5) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

いつもなおかず5.「かれい干しました」



地元の丸七マーケットの魚屋で「柳かれい」を売っていた。
かれいの干物に目がない私は、迷わず買って帰った。
買うと高いかれいの干物を、作って食べるつもりである。

先日、まぐろの血合いジャーキーのために干物箱を作った。
しかし、干物箱作って待っていても、まぐろの血合いは、なかなかいいものに出会えない。

出番がないまま、玄関の隅で干物箱がさみしそうにしてる。
彼にも活躍の場を、と思っていたところだった。


かれいs干し.jpg




かれいのウロコを引き、おなかを出して軽く塩をして、経木にはさんで一晩置いた。
かなり水が出たので、串に刺して干物箱に設置。
長さがあったので、対角線におさまるようにした。

干物カゴなんてものも売ってるけど、あんなヤワなものでは役に立たない。
なにせ町なかなのに、へび、カラス、トンビ、リス、アライグマ、ハタネズミなどが
家のまわりに棲息するという野蛮な環境である。
ごみ収集所も、ネットから組み立て式の金属のものに変わったくらいなのだ。

で、金網を6枚、百均で買ってきて、組んで針金で留めて干物箱とした。
しかし、構造的にはわずかな衝撃で、すぐたわむ ゆがむ へしゃげるのが特徴、
というようなシロモノである。
フックをつけて、庭の木に吊るしておいたけど、一日中気が気でない。

ときどき見にいっては、無事の様子に胸をなでおろして日が暮れた。
その日の夜と翌日は、お風呂の窓のコーナーに吊るしておいた。


そして夜。
どんなになってるやら、と見に行くと、
カパーンと干し上ったかれいがいた。

こんなにちゃんと干してあるかれいは見たことがない。

たいてい生干しで、買ってきて経木やピチットシートにはさんで水を抜かないと、
なんとなく生ぐさいものが多いのだ。



かれい焼きs.jpg




お酒をスプレーでプシュプシュしてしばし置いてから焼きました。
網とかれいにお酢を塗って。(くっつかないためです)
よく乾いてるので、網にくっつくこともなく、
からんっと焼き上がりまくた。

香りに、すだちとお醤油をプラスして食べたら、
胸のあたりは、身がふっかりしておいしく、縁側は香ばしく、
しっぽの近くは身の旨味がギュッとつまっていて、
それはそれはおいしくて、食べてるあいだ中、にまにましてました。

食べていて、ふっと気がついたのは、これは「柳かれい」として売られてたけど、
「ヤナギムシカレイ」ではなく、「ヒレグロ」だったんではないかと。
「ヤナギムシカレイ」とは、色も香りも違ってました。
コーフンのあまり、食べるまで気がつく余裕もなかったみたい。
どうりで安いはずだ。

でもいい、干物というおもちゃが増えたことだし。



かれい骨s.jpg



いずれ、カラスの総攻撃に合う日がくるかも知れないけど、
めげずに干物を作るぞ わたくしは!





posted by 瓜南直子 at 15:52| Comment(0) | いつもなおかず | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月25日

さようなら お餅のカビ。




ある日、「いいものがあった〜」と言って母親が帰ってきた。

「これでカビなくてすむわね。」
「ホコリもつかないし」
「乾いて割れたりもしないわよ」

めずらしくコーフンしているので何事かと思い、買物袋をのぞいてみると、
それは、パックの鏡餅だった。


当時、その手のものが出始めたばかりだった。
めったなことでは目新しいものに手を出さない母が、これだ!とばかり買ってしまったくらい、
鏡餅のカビには心を痛めていたのである。

表面はもちろん、ひび割れの奥に巣食ったカビもとりのぞき、
おぜんざいや揚げ餅、かきもちにする。
それでも、そこはかとなく漂うカビ風味。

冷凍すれば乾燥して回りが固くなる。脱酸素剤はなんだか高いし、
お餅のために脱気パック器を買うのもなんだかなー だし、水餅は風味が悪くなる。

結局、冷凍するんだけど、冷凍したら最後安心して放置してしまい、
数限りない開け閉めの果てに、今度は霜のついた餅を食べることになる。

お餅の管理。
それは、めちゃ保守な母親に「パック鏡餅」を買わせてしまうくらいのストレスだったのだ。




お餅保存.jpg



昨年末12月27日に、鎌倉 大町四つ角の和菓子屋「大くに」でのし餅を半分買った。
ほかほかだったので一日置いて切り、とりあえずタッパーに保存することにした。

その時、ふと思いついて 底と側面、蓋のうらを経木で覆って、お餅を入れてみた。

正月三が日は、お雑煮にしていただいた。
その後しばらくお餅を食べるチャンスがなくて、そのまま放置しておいたけど、
1月10日頃、開けてみるとなんともなかったので、一度 結露を拭いて、経木を取り替えた。

そして旧正月の23日。どーかな?と開けてみたタッパー。

なんの変化もない。ピクともしてない。カピのカの字も生えてない。

経木の威力おそるべし。これは、この冬一番の発見だった。(二番は、数の子の薄皮を取るには、三角コーナーや排水口のストッキングみたいなネットがお役立ち、ということ)

もう、個装パックのお餅を買わなくていいのだ。
カビを包丁でこそげ落としたり、それでも根っこが残っていて、
カビのかほり漂ようお餅をうつむいて食べることもない。経木さえあれば。


経木は市場でまとめて買っている。魚や干物の保存、ハムなどの保存にも重宝している。

経木については、以前ブログ「経木を使おう!」に書きました。
http://kanannaoko.seesaa.net/article/142910250.html



こんなすごい発見をしたのだから、ぜひ母に教えてあげたいけど、
人生の仕上げに入ってしまった母にはもう、お餅のカビなんて些末なことに興味はないようだ。






母が買ってきたパックの鏡餅はしばらく開けられることはなく、
翌年の正月も「なんともなってない」ということで、そのまま三宝に乗せて橙を飾り、
見事 鏡餅ならぬ飾り餅として役目を果たした。


その後 何年かして、「これ、白く塗ってくれない?」と、母が奇妙な物体を持ってきて言った。
見れば、パックのピンホールから侵入したカビに覆われた鏡餅。

私はだまって、パックの表面を800番のペーパーでやすり、
アクリルガッシュの白で塗り、ジェルメディウムを薄めて半つやを出しておいた。



その後、その物体がどうなったかは知らない。




posted by 瓜南直子 at 23:42| Comment(0) | キッチンにて。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

能登の雑煮


能登雑煮.jpg




旧正月の朝は今朝は、能登のお雑煮で「新春」を祝った。
これは、薄味のお出汁に茹でた丸餅を入れ、
山盛りの鰹節ともみ海苔をたっぷりかけるだけのとてもシンプルなお雑煮である。

新暦のお正月のお雑煮は白味噌で。そして旧暦は能登のお雑煮で。


私は能登で生まれた。
父が、今は廃線となった輪島線の建設のために能登に赴任して、私はそこで産声を上げた。


2歳になる前に東京に転勤になったので、能登の記憶は何もないし、このお雑煮も食べた記憶は実はない。

だいたいどこも仮住まいのように、あちこち転々としてきたから、味の根幹というものがないのだ。
でも、このお雑煮だけは自分の根っこの味のように大切にしている。

自分の根っこをなんとかどこかに結び付けたくて、お雑煮にしがみついているだけなのかも知れない。




能登は丸餅文化圏なので、実際には茹でた丸餅を使うらしいけど、
丸でも角でも、焼いたお餅の方が香ばしさが加わって、うんとおいしいと思う。



鰹節はたっぷり削っておきます。削り器がなければ、袋入りのおかかを。
裏に「かつお枯れ節」と書いてあるものを買って下さい。
「かつお・ふし」と書いてある、いわゆる花かつおは、鰹節を削ったものではなく、
工程を省いて作られたものなので、香りがあまりよくないです。

海苔は、干し海苔を買ってあぶるのがいちばんだけど、まあ、焼き海苔で。
これをもんでこまかくしたものと、おかかを混ぜたものをたっぷり用意しておきます。

あとで どっさりおかかが乗るので、出汁は昆布でじゅうぶん。
淡口醤油とお酒くらいのさっぱりした味付けにして、
ちょっとたまり醤油かシーズニングソースを加えます。

お椀にお餅をいれ、出汁をはり、おかかと海苔を どばっ と、おてんこ盛りにします。



昆布と鰹節と海苔だけの雑煮。
海に囲まれた日本の歴史と知恵を噛みしめる、ありがたいお雑煮だと思います。
餅、昆布、鰹節、海苔。それぞれの素材の由来を考えると、
お正月にいただくのにふさわしいお雑煮のように思います。



写真は、ピント合わせてるうちにかなり沈んでしまいましたが、
削りたてのおかかともみ海苔、 これでもかっ というくらいに おっっってんこ 盛りにして下さい。




ところで、このお餅。暮れに買ったものなんです。一か月近く経ってます。
冷凍も脱酸素もしてないし、水餅にもしていません。

けれどカビ一つ生えていないのはなぜでしょう。



以下次号。

瞠目 刮目して待て。



posted by 瓜南直子 at 15:15| Comment(0) | 料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月22日

いつもなおかず4.「ごぼうの小枝きんぴら」



ごぼう小枝.jpg





ごぼうの味と香りは皮にある。

だから、皮は剥かないし、包丁の背でこそげたりもしない。
タワシで洗うだけにしてる。
アクをぬくため水にさらす時間も10分ていど。
最近のアクの少ないごぼうなら、これで充分。



ごぼうのいちばんぜいたくな食べ方は、なんといっても「管ごぼう」。
さっとゆでてから、竹串を刺して回し、中の芯の部分をとりのぞいて、
皮の部分だけを煮るのである。

芯のところのシパシパモサモサした部分がなく、
香り高い皮の部分だけを食べるという、なんともお大尽な食べ方だ。
ちょっと茹でて、竹串を回している時の ごぼうの香りがうれしい。
これこそは、料理する者しか知ることのないよろこびだ。

芯の部分はふだんな煮物(鶏肉とこんにゃくとか)に使ったり、
冷凍しておいて、肉のかたまりを煮る時や和風スープを取る時に使っている。


ごぼう料理で、いちばん頻度が高いのが、この「小枝きんぴら」



細いごぼうなら そのまま、太いものは、お箸くらいの太さに切り揃えます。
10分ほど水につけてアクぬき。

私は「小枝きんぴら」用の、というか炒め煮やきんぴらに使っているうちに、
すっかり油がなじんだアルミの片手鍋を使っていますが、テフロンのフライパンでもいいです。

浅めで水分が飛びやすい鍋がいいようです。

たっぷりの繊切りしょうがと、種をとって小口切りにしたタカノツメを用意しておきます。

胡麻油(黒、白はお好みで)を熱し、しょうがを炒めて香りが出たら、
ごぼうを入れて炒めます。

火はずっと強火です。

出汁を少々入れて煮とばし、酒を入れて煮とばし、淡口醤油とみりんを加えて煮とばし、
と、煮汁の中でグズグスにならないように、常時鍋をかえし箸であおりながら、炒めます。

タカノツメは早めに入れると辛く、仕上げ近くに入れるとマイルドになるので、お好みで。

最後にシーズニングソースかたまり醤油をタラッとまわし、火からおろしながらも、
鍋をかえし箸であおって水分を飛ばします。

器に盛って、もみ胡麻を天に散らします。

出来立てはキワッキワッのごぼうの香り。
味は そのあとからついてくる感じ。
しばらく寝かせると、ごぼうと調味料が手打ちして、全体がしんみりいい味に。

歯ごたえと香りの良さで、ついつい後をひくおいしさです。


小枝きんぴらA.jpg

                          これは翌日のもの。水分がとんで油もなじんでる。




最後にお酢をまわす時もあります。
次の日には、お酢の匂いはどこへやら。
複雑な旨みとして、ごぼうにからんでいます。
初めて食べた人は、おいしいけどいったい何の味だろう、と首をひねってる。

旨みの正体はお酢だと言うと、たいがい「えぇーーーっ!!お酢ぅ??」
と のけぞる。

でも、九州の郷土料理「ユナマス」も、尾張地方の「煮和え」も、
数種の野菜やこんにゃくを炒めて作る「なます」。
つまり、お酢が決め手なんです。
持ちがいい上に、時間がたつごとに味が練れて、どんどんおいしくなる。

インドカレーだって酸味(柑橘系)で味をまとめるんだし。
豚の紅茶煮も、漬け汁にお酢をけっこう入れるし。
醤油ができる前の調味料「煎り酒」は、お酒に梅干しを入れて煮詰めたものだし。

隠れたる実力者、お酢に愛を!もっと光を!



A小枝きんぴら.jpg





写真を3枚載せましたが、作るたびに景色が違うのがよくわかると思います。
ごぼうの産地、季節、太さによって、こんなに変わってきます。
やっぱり地でとれた細めのごぼうで作るのが いちばんおいしい♪







posted by 瓜南直子 at 22:14| Comment(1) | いつもなおかず | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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