2010年02月03日

額縁は男前

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初めて個展をした時、額縁を作りたいのだけど、と日本画の同級生に相談した。

紹介されたのが、澤田アート工房の澤田治孝さんである。

愛媛県松山市出身の澤田さんは、多摩美で日本画を専攻していた。卒業後、職業訓練校で木工の修業をして、創作家具の制作をはじめたという変わり種。

端正なデザインと、堅牢な作りが人気で、新築の家の注文家具なども手がけていたという。

しかし、多摩美時代の友人たちが泣きついてくる。
家具が造れるんなら額だって造れるだろう。創画会に出品するから、100号1点作ってくれ。グループ展用に5点作ってくれ…。

仕方なく、家具制作の合間を見て作っていたら、人づてに個展をやりたいから20点程作って欲しい、というのがあらわれた。
それが私です。

以来、無茶を聞いていただきながら、20年額縁をお願いしている。

デザインは試行錯誤しながらの共同開発。私のいいかげんなスケッチをもとに澤田さんが試作したり、試作したものを澤田さんに渡して完成させてもらったりしながら、いくつか定番ができた。

今では、「コーナー黒べ」「宮殿タイプ」「タモの簓仕上げ」など、二人にしか通じない符丁で、確認し合っている。別に内緒でも何でもなく、こう言わないと通じないのだ、お互いに。


澤田さんの額縁が素晴らしいのは、一つには、その作りにブレが全くないこと。よほどデータ管理がしっかりしているのだろう。一度デザインが決まると、何年作っていなくても寸分違わぬものを作ってくれる。

打ち合わせの時など、美大生の名残りなのか、小さなスケッチブックに鉛筆でメモをしている。すべてここにストックされているらしい。

もう一つは、作りがとにかく正確なのである。

表面は芸術的なんだけど、作りがアバウトで長期的にみると不安、という額もあるが、澤田さんの額なら安心していられる。安心して絵を収めて、お嫁に出せるのだ。

正確なので、こちらは頭を使わなくていい。

裏蓋など、端からネジ止めしてもピタリと合う。これはけっこう面倒な作業で、個展前の疲弊しきった頭と身体で、だましだましネジ止めしていって、最後に合わなくて、あー天地が逆だったー、なんてことになると、何もかも放り出したくなる。

そして、何より私の場合、作品の色や質のテイストを誰より良くわかっていてくれることだ。同じ黒でもニュアンス一つ違えば、全く違うテイストのものになる。

そのあたりはやはり、日本画のことをよく心得ているからだと思う。

デザインの変更、測り間違い、急な注文、はなはだしい支払いの遅れ…。この、絵描きのわがまま無茶(私だけだとは思うけど)に、根気よくつき合って下さってすみません、なんて言うと、真顔で「いやですよ。つきあいたくないですよ」と言うに決まってる。

物腰は柔らかいが芯は強く、どこかとっても頑固。背筋がまっすぐな感じがするのは、額も澤田さんも同じ。松山藩士って、こんな感じかなあ、と勝手にイメージしてしまうのだが。

観賞絵画というものは、額に入って初めて完成と言えると私は思っている。
だから額に入れてから、もう一度作品に手を入れることも少なくない。澤田さんの額と呼吸を合わせたりずらしたりしながら、仕上げてゆくのだ。


どこか江戸指物のような美意識を感じる、シンプルかつソリッドな仕上げに見えかくれするのは、いわば額縁の矜持。

それは、絵描きの背筋ものばしてくれる。


■澤田アート工房

http://gakubuchisawada.web.fc2.com/

E-mail hal-sawada@syd.odn.ne.jp

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posted by 瓜南直子 at 13:26| Comment(1) | 絵とその周辺に棲むもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月11日

この島に生きるものの、内なる記憶を語る。


ある日気づいた。私は孤児のように現代にぽつんと生まれ落ちた子ではないのだと。

太古からの幾百層にも重なった時代のどこを掘り起こしてみても、かならずそこに私がいる。同じ声でうたうものがいる。虫やけものや魚だったり、老人や子どもだったり何かの化身だったりと、姿を変えていても。

神話の時代から、緑と岩清水に造形された、この奇跡のような島だけが持つことができたものがある。その感覚は誰もの内の深いところで、たしかな記憶として眠っている。それを掘り起こし、紡いでゆく。それが私の仕事だと思っている。そして、私に描かれるまでのながいながい時そのものを、絵の中に棲みつかせたいと思う。描く人も見る人も、共有する内なる感覚にうれしくなるように。

 私の役割は、語り部のように物語を記し描いてきた祖先たちのの末裔として、その拾遺を描いている、というところでしょうか。




posted by 瓜南直子 at 14:39| Comment(2) | 絵とその周辺に棲むもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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